大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和35年(ワ)4637号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕原告は昭和三四年一月一四日被告の媒介により訴外祭原寛一と同人から本件宅地建物を買いうける契約をしたが、その際被告にたいしすみやかに右不動産上に存する抵当権を被担保債務の弁済その他の決済方法によつて抵当権設定登記の抹消をうける事務を委託し、その費用としてそのころ合計金二七〇万円を交付したが、被告が受託事務を処理しなかつたので、原告はやむをえず、昭和三五年四月一八日口頭で委任契約を解除し交付した金員の返還を求めた。

被告は原告から委託をうけた事務の処理には抵当権者との折衝を必要とするところ、それには本件抵当権の設定者ないしその地位を引継いだ祭原寛一が最適任であると信じたので、抵当権消滅事務を祭原に再委任しその費用として原告から交付をうけた前記金員を交付したのであつて、そのことは被告としては委任の本旨に従い善良なる管理者の注意をもつて事務を処理したことになると抗争した、原告は被告の右抗弁にたいし、かりに被告主張どおり祭原に再委任したとしても、被告は祭原の委託事務処理を監督しなかつた点でも善良な管理者の注意義務を欠くものであると主張した。

判決は被告が原告の承詰をえずに祭原に再委任をした事実を認定した上、本件においては第三者に再委任するにつきやむをえざる事情があつたとはいいがたいとして被告の抗弁を排斥し、つぎのとおり説明している。曰く。

「被告は、原告から抵当権消滅事務の委託を受けて間もない頃祭原に同事務の処理を再委託し、その費用として原告から交付を受けた金二、七〇〇、〇〇〇円中金二、二四〇、〇〇〇円を交付したところ、同人は受託事務を処理せずにその頃右金員を他に流用した事実が認められる。おもうに、本件のような抵当権消滅事務処理の委託を受けた者は原則として受託事務を自ら処理するを要し、委託者の許諾を得たときまたはやむをえない事由があるとき以外はこれを第三者に再委任することは許されないものと解するを相当する。しかして、これについて原告の許諾をえたこと、またやむをえない事由があることについて何らの主張も立証もない。尤も、前掲甲第二ないし第四号証を綜合して認められる本件抵当権者が神奈川トヨダ自動車株式会社及び七欧通信機株式会社である分は祭原がこれを設定したものである事実その他前示諸般の事情を斟酌すると、本件においては祭原をしてその事務を処理せしめることが適切であるといえないこともないが、しかし、原告が特に被告に事務処理を委託した事情を勘考すると、未だ前示第三者に再委任するにつき、やむをえざる事由があるとはなし難い。殊に、……を綜合すれば、当時、原告は祭原と面識がなく、専ら被告を信じて本件不動産の売買契約を締結したものであり、また、被告は祭原には、誠実かつ、すみやかに受託事務を処理することを期待できない状況にあることを察知していた事実が認められる本件においてはなおさらである。しかしてかかる場合には、被告は祭原が受託事務を処理せずに費用として交付を受けた金員を他に流用したことによつて原告の蒙つた損害を賠償する義務を負うものというべきである。」(石田実)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!